青山学院大学ジェロントロジー研究所

連続講演会 第7回
「地域包括ケアと美齢学」講師 宮島俊彦先生

写真 宮島俊彦氏のご講演の様子

連続講演会第7回「地域包括ケアと美齢学」
日 時:2022年12月11日(日)10:00~11:30
場 所:青山学院大学17309大教室(青山キャンパス17号館3階)
講演者:宮島 俊彦氏
    兵庫県立大学客員教授
    日本製薬団体連合会理事長
    公益財団法人理容師美容師試験研修センター副理事長
    元厚生労働省老健局長・内閣官房社会保障改革担当室長
 
開催報告:
 本研究所は、2018年に発足され、広く多くの人にジェロントロジーを知っていただき、明るい長寿社会の構築をめざすため、毎年連続講演会を開催しています。
 今回で第7回目を迎えた講演会は、超高齢社会を目前にして、重要な課題となっていた2000年代初頭の医療や介護・福祉領域に、行政官として関わっていらっしゃった宮島俊彦氏にご講演いただきました。特にそのご経歴から、今なぜ「地域包括ケアシステム」の推進が必要なのか、また、地域包括ケアに係る医療や介護・福祉と美容の連携が重要なのかを、山野学苑故山野正義総長と「美齢学」の出会いからお話しいただきました。

宮島氏の示された地域包括ケアシステムの概要図
(第2回社会保障制度改革国民会議 これまでの取組状況と今後の課題(介護分野)2012年 厚生労働省より)

 宮島氏は、地域包括ケアシステムの必要性を、歴史的背景から次のように説明されました。1970年代のような治療することが目的の医療では、高齢者を寝かせきりにすることで、自立度は低下する一方でした。そこで、医療は入院、回復期、退院をスムーズにし早期の社会復帰のできる形にすすめること(垂直統合)、そして誰もが地域で長く元気に生活するための、医療や介護・福祉と共に美容も含めた連携(水平統合)が重要となることを示されました。(地域包括ケアシステム図参照)しかし、この地域包括ケアシステムに付随する医療や介護・福祉の課題(社会保障の財政、マンパワー、医療や介護のしごと内容など)に対して、具体的な改善が求められており、地域包括ケアシステムの構築はまだ不十分であることも指摘されました。
 そしてその為の様々な解決策を提案された後、宮島氏は、加齢や病気、人の生や死をどうとらえるのかという、見方を変えることも重要となることを、実践例を示して強調されました。例えば認知症を「病気」ではなく「人」という見方に変えるということです。この事例として町田市の「DAYSBLG!」という地域共生社会をめざすデイサービスの活動を紹介されました。認知症になっても地域で働く人たちの姿からは、認知症という「病気」ではなく、(人のために)はたらくひたむきな「人」であり、マンパワーとなっていることが伺われました。
 
 つまり「地域包括ケアシステム」は、ジェロントロジーによる社会還元の形である、医療や介護・福祉の地域完結型システムです。しかし重要なことは、地域の一人ひとりが「人」としていきいきと人生を全うできることだと、この講演を通して私は強く感じました。そしてそのいきいきと生きることを「美齢学」は、「生きるほどに美しく」という言葉に集約しています。
 宮島氏の「地域包括ケアと美齢学」のご講演は、超高齢社会が単に介護の必要な高齢者の増える社会というネガティブな発想ではなく、人が生まれてから死をむかえるときまで地域で生き、地域共生社会を創る一員であるというポジティブな発想と実践に向かうものであることを示唆されるものでした。
 
 来場者は、青山学院大学等の学生から一般のシニア世代まで幅広く89名でした。講演後のアンケートの回答には「私たちの世代に求められている課題を認識するきっかけにつながった。」「『美齢学』や『老年学』などと言った言葉自体聞くのは初めてであったが、介護や医療などを様々な側面から考えることができ、勉強になった。」など若い世代にも受け入れられるものでした。
 
 ご多忙にもかかわらず、ご講演いただいた宮島氏にこころより感謝申し上げるとともに、ご来場の方々にも深く感謝し、盛会のうちに終了したことを報告いたします。

以上
文責 山野美容芸術短期大学 大西典子
2022年12月20日