青山学院大学ジェロントロジー研究所

連続講演会 第3回 「つながる言葉–看取りと家族」講師 永田和宏氏

講師 永田和宏氏

本研究所は一般の方にジェロントロジーを知っていただき、明るい健康長寿社会を構築するのに役立つヒントを提供する目的で、一般向けの連続講演会を行なっています。第3回は2019年10月5日(土)に京都産業大学タンパク質動態研究所長で歌人の永田和宏氏を青山キャンパスにお招きして開催しました。永田氏は体内でコラーゲンや酵素などのタンパク質が不良品にならないようにする分子機構やそれに関連する病気を解明した細胞生物学研究の第一人者であるとともに、朝日歌壇選者や宮中歌会始詠進歌選者を長年務める現代歌壇の大家でもあります。講演会では三木学長のあいさつに続き、永田氏に「つながる言葉 – 看取りと家族」という演題で言葉についての講演をしていただきました。会場では150名の参加者が永田氏の話に聞き入りました。

講演は、日本人は万葉の時代から和歌で自分を表現してきたという話から始まりました。和歌・短歌から読み取れる昔の人の死生観は現代人のそれと何ら変わらないもので、死は誰にも平等に訪ずれ、誰もが死と対峙することになると提起されました。永田氏は自らの人生経験、特に乳がんで亡くなった奥様(歌人の河野裕子さん)との出会いから闘病、看取りまでを短歌を交えて語り、日々の出来事や家族の絆を短歌で表現することの素晴らしさを語られました。五・七・五・七・七という短歌の定型では、うれしい、悲しいといった形容詞を使わず、そのシーンを臨場感とともに切り取ることで心の機微を表現し、その瞬間を永遠に残せることが多くの例で示されました。特に印象的だったのは、愛や感謝といった相手に最も伝えたい大事なことこそ、言葉で表現すること、口に出して伝えることが難しいということでした。これに取り組んで言葉を真の癒しや絆にすることで、身近な人の、あるいは自分の死にも向き合えるようになるだろうと感じられました。

学長 三木義一

講演後、多くの方がアンケートにご協力くださり、貴重なご意見・ご感想をいただきました。伴侶との死別で絶望の淵にあった時に永田氏の歌集やエッセイを読んで励まされたという方が何人もいらっしゃいました。また、十代から年配の方まで短歌を始めてみたいと書かれた方が多く、永田氏が多くの方を言葉の力で魅了し、新しいことに挑戦する力を引き出したものと確信しました。本研究所の目指すジェロントロジーの新分野開拓にも大きな示唆を与えるもので、ジェロントロジーにおける文学の重要性を再認識しました。